7月28日(三日目、最終日)
この日は昨夜の疲れがでて目覚めたのは昼前であった。ロバートさんは早起きして
フンチュウなどを採集してきている。この日は公園内の林道を一周してみる予定だ。
まずキャンプ場の近くにあった朽ち木を起こしてまわる。昨日と同じ要領でやれば、
ミヤマのメスが追加できるに違いない。林道を歩きながら蝶々にも目をやる。日本の
カラスアゲハのような蝶が飛んでいる。

林道を歩いているうちにふと足元に目をやると、大きな甲虫が落ちていた。おお、こ
れぞ探し求めていたエレファスミヤマのオスである。大あごが半分折れ、フセツも欠
けて半分死にかかったような状態ではあったが、紛れもなくエラフスミヤマのオス
である。とうとう自分で採集できた。

昨日から採集していたミヤマのメスはやはりエラファスミヤマのメスなのである。
日本のミヤマのように木を蹴ったら落ちてくるのでは、と思い蹴ってみるが直径が
80センチ以上あるような木ばかりで、そんな木を蹴ってもビクともしない。
ロバートさんにこれが日本式のミヤマの採集法です、と説明しながら蹴るが、ビクと
もしない大木を蹴る姿がこっけいに写るらしく笑っている。

ライダーキック作戦はこうして失敗に終わる。

仕方がないので、次ぎなる作戦、双眼鏡を使って枝先を丹念に見て回ることにした。
時間をかけて見ていくがじっとしていると虻が襲ってくる。 これも失敗。気が付くと
ロバートさんに置いてきぼりにされてしまった。やはりここは初心に帰って最初にメ
スを採集した朽ち木起こしで採集していくことにした。朽ち木を起こしていく内に
ゴロン、と大きなクワガタの3令幼虫が転がってきた。これぞまさしくエラフスミヤ
マの幼虫に違いない。こんなに大きくなるクワガタなんてエレファス以外考えられない。

どうも このクワガタの幼虫は地面すれすれの所で生活しているようだ。幼虫の食い入
っている部分は非常に柔らかく、そして湿っている。朽ち木を崩すのも非常に楽だ。
そうしているうちに夕暮れだ。キャンプ場に戻り、数えてみると6匹幼虫が採集でき
た。メスは8匹ほどだ。オスはボロが1匹のみだがとりあえず採集できた。これで、
カリフォルニアから苦労して来た甲斐があったというものだ。万歳!ロバートさんも
30分ほどで戻ってきた。彼も同じくらいの数のミヤマの3令幼虫を採集していた。
彼は幼虫を育てることに興味がないそうで、私にすべて譲って
くれた。そして1匹だけであるがオオクワガタの一種のオスを採集していた。キャン
プ場の近くで採れたそうであるので案内してもらう。同じ朽ち木から今度はメスと多
数の幼虫を採集した。(しかしこの幼虫もルリクワガタの幼虫であることが後で判
明)。メスの形態からすると、どうもカナダでも採れるパラレラスオオクワガタ
Dorcus parallelusとは違う。手元にロバートさんが持ってきてくれたparallelusの
メスの標本があったので比較してみるが、もっと体が太くオスも何かが違う。
ロバートさんも同じ意見だ。アメリカの甲虫図鑑によると、アメリカ東海岸には
Dorcusの仲間が3種分布しているそうなので、おそらくparallelusとは違う種なのだ
ろう。

その夜もミヤマのオスを採集すべく、灯火採集の準備を始める。その夜は無情にも
11時ごろから雷雨になってしまったが、1時間ほどで止んでくれたのは幸いだっ
た。雨が降り終わった後トラップを見に行くと、ティティウスのメスが来ていた。
これでティティウスのペアが出来上がり、続く個体を待ったが、ティティウスは私が
滞在している間に来たのはこの1ペアのみであった。 後でロバートさんから聞いた話
だと、氏はその後3メス追加したそうである。この夜は朝方4時ごろまで粘ったもの
の、エラフスのオスは結局来なかった。私の飛行機は29日の朝10時だったので、
ライトトラップをたたむと、荷物をまとめ、ロバートさんに別れを告げ公園を後にす
る。 ボルチモアの空港へ向かう途中、非常に眠くなったが結局徹夜で空港まで運転し
ていった。 次に訪れるときはケチって激安チケットなど買わずに、もっと近い空港ま
で来ようと思う。

今回の採集ではロバートさんには非常にお世話になった。夕飯はいつも彼特製のパス
タを ごちそうしてくれたし、狭いテントにも関わらず、テントの中で泊めていただい
た。 しかもカミキリムシ一年生の私にいろいろカミキリムシの採集法など伝授してく
れてカミキリムシを集めるきっかけを作ってくれた。 ありがとう、ロバートさん。
カリフォルニアでカミキリムシ、たくさん採れたら送るね。

もしこの採集紀行を読んで、エラフスミヤマを採りたい!と思う奇特な方のための
役に立つかどうかわからないアドバイスを幾つか紹介。

まず、エラフスミヤマという種はヴァージニアにおいてはどちらかというと、海岸沿
を好む種だそうです。ヴァージニアの博物館で研究されている昆虫学者がそうおっし
ゃっておりました。内陸部には山がたくさんあるけれども、個体数は少ないそうで
す。 今回書いたけど、毒蛇も結構棲息しているそうです。また、アメリカではBlack
widowと呼ばれている毒蜘蛛もいます。大変強力な毒を持っていて危険だそうですの
で、気をつけましょう。 田舎なので食べ物も日本から初めて来られる方には強烈そう
なものばかりです。カップらーめんなど持参されるのも一つの手だと思います。昼間
は暑くても明け方は寒いです。真夏でもジャケットなど持ってこられた方がいいでしょう。